潜水病(減圧障害)ってなに?

「海の中の世界を見てみたい!」自分の価値観や世界を広げることはとても素晴らしいこと。しかし、海の中という特殊な環境の中に、陸上での常識と同じ感覚で足を踏み入れてしまってもいいのでしょうか。経験しなければわからない事、世の中にはたくさんありますよね!?ダイビングにおいても、こんな危険があるの?そんな現象があるの?というポイントがあります。前回の「耳抜きってなに?」に引き続き、ダイビングにおける「潜水病」についてフォーカスし耳鼻咽喉科医の森下先生に解説していただきます!(今回も有難うございます!)

 潜水病(減圧障害)は、減圧症と動脈ガス塞栓症を合わせた総称です。
減圧症とは、潜水や潜函(※1)作業などの高気圧下で体の中に溶解した窒素が、減圧に伴って気泡化することで起こる病態をいいます。血管内で気泡化すると、血管が詰まり(血管内塞栓症)、様々な臓器に障害をきたします。
動脈ガス塞栓症とは、高気圧下からの減圧時に、肺が膨らみすぎて破裂・損傷し空気が血管内に流入することで、空気で血管内が詰まり(空気塞栓症)、脳梗塞や心筋梗塞などを引き起こす病態です。

※1:潜函とは、 高層建築、橋、地下鉄、水底トンネルなどの基礎工事を行うため、所定の支持基盤まで沈没させ、圧縮空気を送って地下水を防ぎながら、中で作業ができるようにした空間のことです。

原因

 原因は、高気圧下の環境から急激に減圧することです。ダイビングでいえば、高水圧下の水中から急激に水面へ浮上すると、起こります。また、潜水深度、潜水時間、潜水回数、疲労、肥満度、健康状態、水温など多くの因子が潜水病の発症に影響します。

症状

 気泡化はあらゆる組織に起こりうるため、多彩な症状を引き起こします。
皮膚の発赤・かゆみ、むくみ、関節痛、筋肉痛、しびれ、皮膚の感覚が鈍い・おかしい(感覚異常)、頭痛、疲労、吐き気、めまい、難聴、筋力低下、手足が動かしづらい(四肢麻痺)、体がビクビク動く(けいれん)、意識がもうろうとする・なくなる(意識障害)、尿や便が出づらくなる(排尿・排便障害)、咳、息切れ、血痰、胸痛、不整脈などがあります。
 心停止や広範囲の脳梗塞を発症すると、死亡する恐れもあります。また、水中でめまいや麻痺などの神経症状が出現した場合、適切な浮上ができず、溺死する可能性もあります。

治療方法

 治療は、高気圧酸素療法を行います。高気圧酸素療法とは、大気圧よりも高い気圧環境の中で高濃度の酸素を吸入する治療法です。再び高気圧下に身を置き、さらに酸素を吸入することで、体内に発生した気泡を消失させます。最圧治療ともいいます。
 早期に治療を行わないと、神経症状などの後遺症が起こりやすくなります。

対策

 ダイビングでは、急浮上を避けるのが不可欠ですが、それ以外には以下の項目が発症リスクとなるため、避けるようにしましょう。

• 深くて長時間の潜水
• 脱水状態
• 潜水中および潜水後の激しい運動
• 潜水直後の長風呂(暖まる程度ならばリスクは低い)
• 一部の薬剤:利尿薬、血管に作用する薬剤(多量のカフェイン、市販の風邪薬・点鼻薬)
• 高所移動(潜水後の峠越え:4時間以上空ける、飛行機搭乗:18時間以上空ける)
• 潜水前後の飲酒(6時間以上空ける)
• 減圧不要限界(※2)ぎりぎりの潜水、または減圧潜水(※3)
• 長年の反復潜水による窒素の蓄積

深く潜るほど潜水病になりやすいのは分かると思います。では潜水病にならない水深は一体何メートルでしょうか。それは様々な研究から、6メートル以内とされています。水深6メートルを超えるダイビングでは、潜水病になる可能性がありますので、上記の項目に注意しましょう。
また、数メートル程度の素潜りでは、潜水病のリスクは低いと考えられます。しかし、潜水病になる要因は水深だけではないので、常に潜水病の発症に注意し、準備を怠らないようにしましょう。

※2:減圧不要限界とは、減圧停止を必要としない上限の時間のことです。 減圧停止とは、いきなり浮上しては減圧症になる危険がある深度・時間のダイビングをしてしまった場合に、定められた水深で一定時間停止し、体内の窒素を放出してから上がることをいいます。
※3:減圧潜水とは、潜水を終えて水面に浮上する際に、途中で減圧のための一時停止(減圧停止)を必要とする潜水のことです。

まとめ

 潜水病は、ダイビングにおいて気を付けるべき疾患の1つで、最悪の場合に死に至ることもあります。十分な準備を行った上で、ダイビングを楽しむようにしましょう。森下先生、貴重なお話をありがとうございました。

医師監修-サーファーズイヤーってなに?

-耳鼻咽喉科医-
森下 大樹 先生
聴覚や耳科手術を専門とする耳鼻咽喉科専門医。補聴器相談医、 補聴器適合判定医師、身体障害者15条指定医(言語・そしゃく機能障害、音声機能、聴覚・平衡機能障害) 、難病指定医

参考文献
1)北島尚治:スクーバダイビング.MB ENTONI (243): 52-61, 2020.
2)鈴木直子, 柳下和慶, 外川誠一郎, 他:レジャーダイバーにおける減圧症の発症誘因の統計学的検討. 3)日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 47(1): 1-9, 2012.
4)三保仁:スクーバダイバーの健康診断および減圧障害.総合健診 46(3): 370-376, 2019.
5)堂本英治:減圧障害.日本渡航医学会誌 4(1): 24-29, 2010.