海の砂漠化? 磯焼けの原因と対策

海洋プラスチックごみなどによる海洋汚染と同様に、近年深刻化している海洋環境問題のひとつとして「磯焼け」と呼ばれる現象があります。磯焼けとは、沿岸に生息するコンブやワカメ、アカモクなどの大型の海藻が消失し、代わりに硬い殻のような海藻が海底を覆いつくすこと、いわば「砂漠」のような状態になってしまう現象をいいます。

大型の海藻は海洋生物が排出する二酸化炭素と日光を利用して光合成を行うなど、海の生態系において重要な役割を担っているため、磯焼けによって生態系のバランスが崩れる危険性があります。また、食用の海藻が収穫できなくなるだけでなく、それらをエサや住処、あるいは産卵場とする生物が減少するため、漁業にも大きなダメージを与えます。

磯焼けの原因

磯焼けの原因は地域や環境によって異なりますが、多くの場合は様々な要因が複合的、連鎖的に作用しています。そのなかでも近年急速な磯焼けの進行の原因として指摘されているのが、温暖化による海水温の上昇です。

海水温が上昇することで生じる影響のひとつとして、海流の変化があります。その顕著な例として、宮城県沿岸では2014年以降、親潮の影響が弱くなったことによる藻場面積の減少が確認されており、黒潮にはばまれて親潮が届かなかった2018年にはそれまでで最大のダメージが発生しました。これは、親潮が届かなかったために大型の海藻の成長に必要な栄養が不足したことで、磯焼けが発生したと考えられています。

また、イスズミやアイゴ、チヌ、ウニ、サザエなどの 生物による影響も多く報告されており、とりわけウニの食害は深刻さを増しています。本来であれば、冬場に海水温が下がり大型の海藻を食料とするウニの活動が弱まっている間に藻場が回復しますが、海水温の上昇によってウニが常時活性化すると、藻場が回復できずに磯焼けが持続してしまうためです。

磯焼けへの対策

このような磯焼けへの対策のひとつとして、ダイバーによるウニの駆除が行われてきました。ウニの食害により海藻がなくなったあとも、生命力の強いウニはエサのない状態で長期間生き続けることができます。そのため、磯焼けした海底に飢餓状態のウニが大量に発生してしまうのです。このような身の痩せたウニは商品にならないため、駆除するしかありませんでした。しかし、最近ではウニを駆除するのではなく、回収してエサを与えて育て、商品として出荷する試みも行われています。

先進的な取り組みとして、「キャベツウニ」の取り組みがあります。神奈川県の三浦半島では、磯焼けの原因となっていたムラサキウニを回収し、大根やブロッコリー、マグロなど26種類の食材を与える研究を行いました。ムラサキウニは雑食性のためほとんどの食材を食べましたが、特に葉物野菜を好んだといいます。さらに、ムラサキウニが成長する4~6月がちょうど三浦特産の春キャベツの出荷時期だったことから、流通規格外のキャベツを与えたところ、1匹あたり一玉を食べ、販売できる大きさまで成長させることに成功しました。キャベツのみを食べて育ったムラサキウニは甘みが強く、海藻由来の磯臭さや苦みがほとんどないことから、ウニが苦手な人でもおいしく食べられるそうです。

愛媛県愛南町の取り組みでは、ガンガゼウニに特産のブロッコリーやかんきつの廃棄部分を食べさせて「ウニッコリー」を販売したりと、廃棄物を食用として活用しつつ漁場環境を改善させる一石二鳥ならぬ一石三鳥の取り組みも行われています。まさにSDGs(持続可能な開発目標)に配慮したものとなっていますね。

磯焼けに挑む一人の男

磯焼けが発生する原因は温暖化による海水温の上昇に起因するものだけではなく、風や波、潮流などの自然要因によるもの、排水や海洋ゴミによる海洋汚染、さらには水中工事や建築などの人為的要因によって引き起こされる場合もあります。 そのため、磯焼けの原因を正確に把握するには、マクロの視点で磯焼けが発生している場所の環境、海水の状態、生物の生態と相関関係、そして人為的な要因などを総合的に評価し、原因を洗い出すことが求められます。磯焼けが進行すると岩場や海岸の生態系が大きく変化してしまうため、早期発見と対処が重要とされています。

この磯焼けの問題に早くから着目し、調査・研究を行っている一人の潜水士がいます。一般社団法人・海洋エネルギー漁業共生センター代表の渋谷正信さんです。半世紀に及ぶ潜水士としてのキャリアを通じ、東京湾アクアライン建設や羽田空港拡張工事など数多くの水中工事を手掛ける一方で、「水中工事と海洋環境保全の両立」を目指し、日本中の海で潜水調査や海洋環境を回復する活動を行っています。

人間が我が物顔で海に手を加えていいはずがない——。長年にわたり海を仕事場にしてきた渋谷さんの想いと環境問題解決に取り組む姿は、多くの人に知ってもらうことが重要ではないかと思います。