万が一に備えて、海で溺れた時の対応を確認する。

だんだんと暖かくなってきましたね。水場で遊ぶ季節も少しづつ近づいてきました。「早く海に行きたい」「潮干狩りの時期はまだかい!」とそんなウキウキする私と、きっと同じ気持ちの皆さんに大切な記事を読んで頂きたく、この記事を公開するに至りました。今回は「水難事故特に溺水時の対応」について呼吸器内科医の扇谷先生に解説していただけることになりました。(とても大切な記事です。是非一読ください。)

水難事故は何をしている時に起こる?

海などの水場は様々な体験やアクティビティーの場所を提供してくれる素晴らしい場所ですが、同時に水難事故の危険が常に存在する場所でもあります。

2018年の警察庁「平成30年夏季における水難の概況」をみてみると、同年の水場での死者・行方不明者は242名でした。この内訳を見てみると水泳が39%、水遊びが22.7%、魚取り・釣りが23.6%とジャンルを問わずレジャーでの事故が半数を超えていることがわかります。これらのレジャーが活発に行われているお盆や夏休みのシーズン7−8月は特に水難事故が多くなります。レジャー以外では台風や地震などの災害、それに引き続いて起こす津波などの水害の事例もあります。

まずは溺れないことが大事

海で溺れて命を落とさないためにはまず溺れないように対策をすることが必要です。
海に出かけると気分が昂ったり楽しくなって必要な安全対策を怠ってしまう人もいます。
溺れるということは死に繋がることを意識して安全対策は妥協せずに行いましょう。
特に以下のことを守らずに事故に至るケースが多いので確認しておきましょう。
防波堤などの立入禁止区域には絶対に入らない、急流などの危険な場所には近づかない、
海が荒れているときには無理をせず遊泳を中止する、ライフジャケット(股下ベルト付き)を着用する、子供だけで遊ばせない

また乳幼児の場合には海などの水場だけでなく自宅内での溺水にも注意が必要です。鼻と口を覆うだけの水(コップ1杯分程度の量)があれば事故は起こる可能性があります。乳幼児は頭が大人に比べて大きく力も弱いのでバケツなどに頭から落ち込んでしまうと自力で脱出できない可能性があります。また乳幼児が溺れるときは助けを求めることができず静かに溺れて、気づいた時には重篤な状態になっているという事例もあります
残り湯の入っている浴槽、洗面所・トイレ、水の入っているバケツ、庭の池など危険な場所はないか家の中を見ておくことが重要です。

溺れている人をみつけたら

溺水者を見つけてすぐに助けるために飛び込む・・・こんな描写をドラマやアニメなどで見たことがある方は多いと思います。しかし、これによって救助者ともども溺死するケースも多く発生しています。単独で水に飛び込んで溺水者を救助することはレスキュー隊員でも危険な行為なのです。溺れている人を見たときにどのように行動すべきか見てみましょう。

① まずは落ち着く

焦って行動すると最悪の場合溺水者も救助者も命を落とします。周囲の状況を確認してどのような危険があるのか、救助に使えるものはないか確認しましょう。可能であれば溺水者に今から救助を行うことなどを伝えて少しでも落ち着かせましょう。

② 助けを呼ぶ

単独での救助はかなりの危険を伴います。まずは真っ先に119番通報、海なら118番通報。そのあと、とにかく助けを呼びましょう。人出があれば可能な救助方法もあります。また救助後に蘇生処置ができるようにAEDなどの応急処置のための物品を持ってきてもらうように依頼しましょう。

③ 助ける方法を考える

ロープなどがあれば救助者に向かって投げることで救助ができます。複数の衣服をつなげてロープの代わりにすることもできます
大きなペットボトルがあれば投げやすくするために少量の水をいれ、溺水者に投げて渡しましょう。2本以上渡すことができれば浮き輪がわりになる浮力を得られます。人出がある場合には手と手をつなぎ「ヒューマンチェーン」を作り安全を確保しながら救助することができます。

④ 救助した人への応急処置

溺水で最も問題となるのは低酸素です。肺に水が入り呼吸ができなくなると脳への酸素の供給ができなくなり低酸素脳症となり取り返しのつかないダメージを負ってしまいます。呼吸停止の状態で何もせず10分経つと死亡率は50%を超えてしまいます。また心停止の場合は3分で死亡率50%となります。とにかく躊躇せず迅速に処置を行うことが重要です。
まずは溺水者が呼吸をしているかどうかを確認しましょう。胸が上下しているかどうかを確認します。10秒以内に確認してください。呼吸をしているように見えても有効な呼吸ができていない「死戦期呼吸(喘ぎ呼吸)」に注意が必要です。顎をしゃくり上げるように呼吸している場合はこの呼吸の可能性があり、有効な呼吸ではありません。呼吸が確認できなかったり普段通りの呼吸でない時はすぐに心臓マッサージを行い、次に人工呼吸も行います。(人工呼吸は窒息や溺水の場合、また子供に対する処置では行う方が望ましいとされています。ただし感染防護ができない状況や口と口が直接触れることに躊躇がある場合は省略してもよいとされています)AEDがあれば患者に装着しましょう。機械が心拍を解析して電気ショックが必要かを判断してくれます。
出かける前に救命処置については確認しておくことが望ましいです。日本医師会のホームページに救急蘇生法が説明されていますのでぜひ確認しておきましょう。(https://www.med.or.jp/99/cpr.html

まとめ

今回は溺水者に対する対応を呼吸器内科医 扇谷先生に解説していただきました。
大切なお話をしていただき、本当に有難うございます。
海は危険と隣り合わせであることを理解して万全の準備を整えましょう。万が一溺れた人を見たときのために予めどのように行動するかをしっかりとシミュレーションしておくことも重要です。救命処置を頭に入れておいて、安全に海での活動を楽しみましょう。
楽しい場所として、楽しい思い出として残す為に。

呼吸内科医:扇谷 知広 先生

呼吸器内科医 扇谷先生

聖マリアンナ医科大学卒
所属学会 日本内科学会 日本呼吸器学会

※当記事は医師の執筆・監修によるものですが、人命の救助を確約するものではありません。予め各専門機関、専門家の指導の下講習を受講するほか、有事の際は、医療機関や医師へ連絡、相談する事をお勧めいたします。